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ここへ落ちるぞ:瀬尾 正己

最終更新日:2016年4月1日

 吉野川市鴨島町 瀬尾 正己

 あれは確か昭和二十年の七月二十四日の午前九時ごろだった。いつものように、連隊本部の西側の鉄心道場の南に集合していた。今日の暗号教育が始まろうとしていた。
 「頭右・なおれ・A軍曹以下三十五名・集合終わりました。」の報告を受け、私が敬礼をして右手を下ろそうとしたとき、その右手の延長線上に(石井町の真上ぐらい)飛行機から仁丹粒ほどのものがパラッと三つ落ちるのが目に入った。飛行機がこちらへ向かって飛んでくる。その粒がだんだん大きくなってきた。
 私はとっさに「あれは爆弾じゃ。ここへ落ちる。」と叫んだ。「みな、南の兵舎の方へ逃げろ。」とにかく南の方へ走って行った。私は二中隊(私の中隊)の東の入口で、しゃがんで、両手の親指を耳に、残りの指を目に当てて、着弾するのを待っていた。
 仁丹粒を三つ見てから、一分ぐらい経過していただろうか。ド・ス・ンーと鈍い音がした。しばらくしてまたドスン、またドスン、やはり三発だった。土地が揺れた。爆風で、兵舎の窓がガタガタと揺れながら西の方へ飛んでいった。鉄の破片も飛んできた。
 そして、もといた鉄心道場の方へ足を運んだ。私たちが並んでいた場所から、約十メートルくらい西の所に爆弾が落ちたのか、直径八メートル・深さ六メートルくらいの紡錘形の大きな穴が、ちょうど衛門を入ったところにできていた。鉄心道場の南側の溝で戦闘帽を拾った。手に取って見ると、頭の髪の毛と肉片が付いていた。
 死者・負傷者が集められていた。今の中央病院(当時は陸軍病院)の西の入口付近に犠牲者十五人くらいが並べられた。負傷者は病院へ。爆風による死者だった。元気な兵隊が寝ているように見えた。この兵隊は、衛門の警備勤務中の者ばかり。私の「逃げろ。」の声を聞いていたとしても、勤務中なのでどうすることもできなかったはずである。見習い士官も一人戦死したと後で分かった。
 私の中隊のO上等兵も衛兵勤務についていた。控え室で待機していたが、右足を前に出して椅子に腰かけていたO上等兵は、右足首から靴を履いたまま素っ飛んでしまったらしい。陸軍病院へ入院して、奥さんも呼んで介抱してもらったが、三日目に敗血症で亡くなってしまった。
 その後、彼の家へお悔やみにいったのを覚えている。幼稚園くらいの男のお子様がおられた。座敷の天井に模型飛行機が吊ってあったように思う。「僕が大きくなったら、仕返しをしてやる。」顔は忘れたが、この声は今もなお耳に残っている。
 川内の火葬場で荼毘たびに付して、三日目に遺骨の引き渡しが行われた。
 それにしても、あの爆弾、仁丹粒、ポロッ・ポロッ・ポロッと三つ、それが段々と大きくなってくる。こんな状況は、大阪での暗号研修の際、よく見かけたものだった。運良くその経験が役に立ったわけである。
 この哀れな連隊衛門前被弾のことは、夢かいな、いや、実際にあったという証拠を見つけた。「徳島大空襲」の本の二九一ページに載っている。どうやら、この飛行機は高知から三縄村・辻町山中・佐古・富岡・桑野を経て紀伊水道を南下している。午前十一時・連隊本部爆撃・倉庫・鉄心道場・陸軍病院・佐古十六町目南側・蔵本駅前派出所の警鐘台爆破との記録がある。夢ではない。食い違っているのは、その時刻である。確か午前九時過ぎである。
 もし、この仁丹粒を見つけていなかったなら、私たちも犠牲になっていたかも知れない。これ運命の岐路である。七月三日・四日の徳島大空襲があってから、敵機が我がもの顔に兵舎すれすれに飛んでいたのを覚えている。この七月二十四日の爆弾投下の体験者は案外少ない。
 今年もまた運命の七月二十四日が近づいてきた。六十五年前の記憶がわき出てきた。

「あれ爆弾 ここへ落ちるぞ」暗号の
 兵三十五人の命すくひぬ

今もまだ心の奥に灯は点る
 消しても消えぬ兵の日の灯は

参考資料

「徳島大空襲 手記編」 徳島空襲を記録する会

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