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徳島市立 徳島城博物館
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とくしまヒストリー ~第14回~

「通町」 -城下町徳島の地名2-

 通町といえば、「エビスさん」で有名だ。1月10日が本祭で、9日が宵エビス、11日が残りエビス。この3日間は、事代主(ことしろぬし)神社は商売繁盛や家内安全を願って参拝する人たちで大賑わいとなる。しかも多くの露店が立ち並び、通町は人があふれ活気で湧きかえる。まさに通町は「エベスさん」の町といえる。
 しかし、事代主神社は江戸時代から通町にあった訳ではない。明治3年(1870)、大参事井上高格(たかのり)が旧城下町の繁栄策として八万の夷山から、現在の位置に移したとされる。これほどの賑わいをもたらすことになろうとは、辣腕の政治家井上高格も予測していたかどうかは分からない。
 さて、通町は江戸時代にはどのような場所だったのだろうか。徳島城鷲の門を出て、右側に曲り暫く進むと、寺島川に架かる寺島橋(JR跨線橋、市立文化センター裏)にあたる。橋を渡った右側が家老稲田家(14,361石)の屋敷、左側は徳島市役所になっているが、家老賀島家(10,000石)の屋敷だ。両方とも4,000坪前後の広大な敷地を持った武家屋敷。その間を西進すると通町に至る。つまり、通町は徳島城の玄関口にあたる町人地だった。
 通町の名前は、阿波の官道(主要道路)である伊予街道・土佐街道・讃岐街道筋にあたり、南方と西方から徳島城に入る道筋に位置したことから、この名前があるとされている(「阿波志」徳島城博物館蔵)。
 交通の要地に位置していたため、通町の町人は他国から手紙などを運んで来た飛脚を宿泊させる飛脚宿を務めた(「藩署記聞 坤」徳島県立図書館蔵)。それぐらい重要な町だった。
 通町のある「内町」は、天正14年(1586)の徳島築城とともに設けられ、御用商人たちの店舗が集まった町だ。新町も江戸初期から存在するが、内町より遅れ新しくできたので「新町」と呼ばれる。だから内町のことを「寺島古町」と呼ぶこともあった(「紙屋町宛判物」『阿波国徴古雑抄』)。
 内町には、城下町開設後まもなく、堺の商人、魚屋立安(渡辺道通)や塩屋宗喜らの屋敷が置かれた。立安は有名な千利休の甥にあたる人物だ。その父は蜂須賀正勝に仕え戦死したので、立安は利休のもとで成長した。その負い目もあったろうし、天下人秀吉に近かった利休の縁者であることに着目し、蜂須賀家政は立安を呼び寄せたのである。宗喜も利休の高弟だ。家政は両人を特別に優遇し、寺島の火事により屋敷を失った彼らに住宅の手配をするよう直接家臣に指示を出している(「蜂須賀家政判物」木戸洸氏蔵)。内町は、魚屋立安や塩屋宗喜といった大名蜂須賀家に関わりの深い豪商の集まった町であった。
 内町は大名蜂須賀家と結び付き恩恵を受けてきた町だったから、明治維新の影響は免れなかったのだろう。中心商業地の地位から転落し、荒廃しかかったのかもしれない。そのため、井上高格は、旧城下町の繁栄策として、内町地区のほぼ中央、通町2丁目に事代主神社を移設したのであろう。
 明治時代になると、通町1丁目には舶来小間物商福井肇商店や写真館、同2丁目にはアメリカ製の高級時計ウォルサムなどを扱った時計商桑村安太郎商店と舶来自転車ラーヂ号の代理店であった多田商行、藤村度器販売店、西洋小間物商の冨士谷善平、同3丁目には西洋各国時計商の佐々木宇三郎、真綿糸物商小嶋時太郎商店などが立ち並び、時代の先端を行く町になった。つまり、通町は伝統的な御用商人の町から輸入品を扱うようなハイカラな町へと転身を遂げたのだ。城下町徳島の江戸から明治への移り変わりを考える上で、通町のケースは注目される。
 ところで、最近、タレント北野武さんの祖母うしさんが、明治25年(1892)頃まで通町2丁目で暮らしていたことが分かった(NHK「ファミリーヒストリー」、平成28年12月21日放送)。うしさんは竹本八重子と名乗る女義太夫の太夫(語り手)として知られるが、家業は粉屋であったという。
 徳島の歴史の一コマが明らかになったようで興味深い。城下町徳島には無数の人びとが暮らしており、歴史的には知られていない、そうした無名の人たちに焦点をあてて民衆の視点から徳島の歴史を解明していきたいものだ。


岩村武勇氏収集資料「南海徳島 豪商銘工魁」個人蔵

参考文献

岩村武勇氏『徳島県歴史写真集』、1968年
『写真でみる徳島市百年』、徳島市役所、1969年
河野幸夫氏『徳島・城と町まちの歴史』、聚海書林、1982年
『日本歴史地名大系37 徳島県の地名』、平凡社、2000年

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