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徳島市民病院
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小線源療法

最終更新日:2020年3月9日

はじめに

 徳島市民病院では令和2年3月より転移のない限局性前立腺がんに対して密封小線源療法(ヨード125線源の永久留置)を開始致します。
 密封小線源療法は日本では2003年3月に医療法上認可され、2003年7月からこの治療が施行可能になりました。現在、日本国内では約112施設でこの治療が施行されており、のべ治療人数は4万5千人を超えています。
 前任の徳島大学病院で、小線源治療を開始した2004年7月から小線源治療に携わってきました。現在までの約16年間にわたり約950例の経験を積んでいます。今回、徳島大学病院放射線科のご協力をいただき、十分な準備のうえ、小線源治療を開始するに至りました。

1. 小線源療法とは

 小線源療法とは小さな放射性物質を治療する臓器に挿入して行う放射線治療です。英語ではブラキテラピー(brachytherapy)と言われています。ブラキ(brachy)とは短いという意味で、放射線源と照射目標との距離が短いことからこのように呼ばれています。

2. 小線源療法の特徴

1) 安定した照射野が得られる

 前立腺は腸管の動きや膀胱内の尿量によって位置が変化し、一般に1-2cmは移動します。小線源療法では線源を前立腺内に留置するため、前立腺の位置の変化にかかわらず確実に前立腺内に照射が行われます。

2) 放射線障害がおこりにくい(副作用が少ない)

 外照射の場合は、体の外から患部に放射線を照射するため強いエネルギーでの照射が必要となります。そのため、前立腺の周囲の組織にも放射線がかかり、放射線に弱い直腸や膀胱粘膜、皮膚などで放射線障害が起こることがあります。一方、小線源療法では、線源であるヨード125は、前立腺内の照射に十分なエネルギー量にとどまるため、前立腺周囲への照射量は少なく、皮膚への影響もほとんどなく、直腸や膀胱での放射線障害の起こる可能性も低いのが、治療の大きな利点です。
 また、2019年に認可された前立腺と直腸の間にスペースを作るSpaceOAR(図1)を使用することで直腸障害は今後極めて少なくなると思われますので、当院でも積極的に使用する予定です。

図1

3) 尿失禁が少なく性機能が維持されやすい

 前立腺癌の治療の一つの課題は、いかに尿失禁を起こさず、性機能(勃起能)を維持してQOL(生活の質)を低下させないようにするかということにあります。小線源療法では、治療の初期に排尿困難を認めるものの、治療後の尿失禁(尿もれ)はほとんどなく、長期間の経過観察でもまれに生じる程度です。
 性機能に関しても、小線源療法は様々な治療法の中で最も成績が良く、5年後に性機能が維持される率は7-8割と報告されています。ちなみにホルモン療法では性機能はほとんどの場合に失われますし、前立腺全摘手術において神経温存手術を試みても性機能が保たれる率は3-4割程度といわれています。放射線の外照射の場合でも性機能が保たれる率は5割程度といわれています。

4) 入院・治療期間が短い

 小線源療法は、後述するような手術手技や半身麻酔が必要で、体に全く負担がないわけではありませんが、出血はほとんどなく前立腺全摘手術と比較すると負担の少ない治療法です。当院では、基本的に入院期間は3泊必要となりますが、前立腺全摘手術より短いものです。外照射の場合は、7‐8週におよび連日の通院治療が必要です。いずれにしても、小線源療法は入院が必要とはいえ、短い治療期間ですむ治療法です。

3. 小線源療法の適応

1) 前立腺に限局した浸潤・転移のない症例にのみ可能です

 小線源療法の特徴の項で述べたように、この治療は前立腺周囲5mm以上離れた部分への照射量は少ないため、癌が前立腺の周囲までおよんでいた場合(被膜外浸潤や精嚢浸潤)は手術と同様に治療成績が低下します。また、骨やリンパ節などの他の臓器に転移を認める場合は転移巣に効果がないため治療の対象になりません。したがって、基本的には前立腺の中だけにとどまっているがん(臨床病期B(T2))がこの治療の対象になります。最近は、被膜の外にがんがでている場合(臨床病期C(T3a))も小線源治療+外照射治療+ホルモン療法の併用(トリモダリティー:3つの方法の併用の意)で治療を行っています。さらに、もともと浸潤や転移がありホルモン治療を行った後に画像上それが消失した場合は、一般的にこの治療の適応になりません。

2) 再発例は適応になりません

 前立腺全摘手術後に再発した例や、放射線治療後の再発例ではこの治療は施行できません。また、ホルモン治療中にPSAが上昇してきたような症例も転移の可能性が高くこの治療は一般的に無効です。

3) その他、治療ができないもの

  • 過去に前立腺の摘出手術を行っている場合。
  • 前立腺が極端に大きい場合(治療時に50cc以上の場合)。ただし、ホルモン治療で50cc以下まで縮小した場合は可能です。
  • 下部尿路症状のひどい場合(術後尿路閉塞(尿がつまる)をきたす可能性があります)。
  • 下肢の開脚や挙上などの体位がとれない場合。
  • 骨盤部への放射線治療の既往がある場合。
  • 前立腺結石が著しく、線源の挿入が困難と判断された場合。
  • 前立腺炎
  • 合併症のために、この治療や麻酔に伴う危険が高いと判断された場合。
  • アスピリンやワーファリンなど出血傾向をまねく薬剤を使用して、一定の期間その薬剤を中止できない場合。
  • その他、当院において本治療の適応でないと判断された場合。

4. 小線源療法の治療成績

 徳島大学病院での平均経過観察が約5年(64.6か月)の時点でのPSA非再発生存率は低リスク群で98.1%、中間リスク群で94.2%、高リスク群で89.1%であることを既に論文で報告しています(Urol Int. 2015;95(4):457-64)。
 また、小線源療法導入時から10年以上経過観察できた症例を調査した長期の治療成績も発表されています(福森ら、第107回日本泌尿器科学会総会(2019年4月)、第57回日本癌治療学会(2019年10月))。前立腺癌診断時のPSA(前立腺特異抗原)値および生検時に採取した癌組織の分化度(グリソンスコアー:前立腺癌の組織の悪性度を点数化したもので2-10の9段階で表し、数値が高いほど悪性度が高い)により、病気が進行しやすい高リスク群(PSA 20< あるいは、グリソンスコアー 8<)と、中間の中間リスク群(PSA 10-20、あるいは、グリソンスコアー 7)進行しにくい低リスク群に分けて検討しています。

 低リスク群(PSA 10ng/ml 未満、グリソンスコアーが6以下)の場合には、治療後10年後の非再発率は97.1%、がん特異生存率(前立腺がんで死なない確率)は100%、全生存率は92.9%程度となっています。
 中間リスク群(PSA 10-20ng/ml、グリソンスコアーが7)の場合には、治療後10年後の非再発率は87.0%、がん特異生存率は97.1%、全生存率は85.5%程度となっています。
 高リスク群(PSA 20ng/ml 以上、グリソンスコアーが8以上)の場合には、治療後10年後の非再発率は75.0%、がん特異生存率は88.9%、全生存率は80.6%程度となっています。このデータでは低リスク群の約40 %、中間リスク群の約60%、高リスク群の約90%の症例で小線源治療前にホルモン療法を6か月施行されています(図2)。高リスク群では2014年からトリモダリティーを開始しており(10年以上経過していないので図の発表データには含まれていない)、近年の治療成績はさらに向上しています。

 欧米のガイドラインでは、低リスク群、中間リスク群では線源療法単独で(中間リスク群の悪性度が強い症例は外照射や短期ホルモン療法併用)、高リスク群では、外照射の併用と1~3年のホルモン療法の併用が推奨されています(NCCNガイドライン)。

図2

5. 小線源療法の欠点

1) 放射線障害

 小線源療法はあくまで放射線治療の一つであるので、外照射に比較すると放射線障害は生じにくいものの、直腸、膀胱、尿道への影響はないわけではありません。直腸での障害としては、直腸粘膜にびらん(ただれ)が生じ、ひどい場合には潰瘍や膿瘍が形成されることがあります。海外では、人口肛門を造設した例も稀に報告されています。膀胱の障害としては、膀胱の粘膜が炎症を起こし、膀胱炎様症状を呈することがあります。また、尿道の炎症が強い場合には後で尿道狭窄が起こることがあります。これらの障害が発生するかどうかや程度の差は個人の放射線に対する感受性の相違によって起こります。さらに、放射線治療の影響で膀胱がんの頻度が上がるという報告もありますが、喫煙や遺伝などの影響が大きく正確な因果関係は不明です。

2) 治療時の身体への負担

 小線源療法は体に負担の少ない治療とはいえ、麻酔や線源挿入時の針の刺入による体への侵襲は避けられません。これらの操作に伴う危険は非常に少ないものですが、100%安全とは言いきれません。具体的には、後述いたします「8 治療の合併症」の項をご参照下さい。

3) 治療適応の制限

 次の「治療の適応」の項で述べるように、小線源療法はがんが前立腺に限局した転移のない症例にのみ可能です。また、病気が発見された時点でのPSA値やグリソンスコアーが8以上の高い場合は(高リスク群)、小線源療法のみでは効果が不十分で、外照射や場合によってはホルモン治療を併用するトリモダリティーが必要な場合があります。

4) 性機能障害(妊娠希望の場合)

 5年後に性機能が維持される率は7-8割と報告されており、一般的に手術や外照射より優れています。しかしながら、治療後、精液の量は減少しますので、治療後の妊娠は困難になります。希望に応じて精子の凍結保存を行います(専門病院に紹介)。

6. 治療までの流れ

1) 初診から治療の決定まで

 前立腺生検(組織検査)を受けられ、前立腺癌の診断がついた方は初診時に現在までのデータ(可能な限り紹介状)をお持ち下さい。必要な情報は下記の通りです。

  • 生検時のPSA値
  • 臨床病期
  • 組織のグリソンスコアー
  • 現在までの治療内容
  • 既往症
  • 現在服用中の薬(アスピリンやワーファリンなど出血傾向をまねく薬剤は治療の前後1-2週間ほど休薬が必要です)
  • 臨床病期診断で用いたレントゲン写真
  • 生検の病理結果

 これらのデータをもとに、治療の可否、また治療可能な場合、小線源療法単独で治療可能か、外照射の併用が望ましいかが決定されます。その後、患者さんにこの治療を受けられるかどうかを決心していただくことになります。

2) 治療前のプランニング(照射計画)毎週火曜日

 治療日の3~4週前に必ず来院していただき、治療のためのプランニング(照射計画)を行います。具体的には、治療時と同じ体位をとり、経直腸エコーで前立腺の形態を三次元的に解析してコンピューターに取り込みます。このデータをもとに線源の配置および使用線源数を決定します。
 同時に入院および治療に必要な一般検査として、胸部X線写真、心電図、一般血液検査、出血時間などの検査を行います。治療前のプランニングに食事制限や入院は必要ありません。

3) 入院

 一般的に入院は3泊4日で行います。治療当日は必ず個室管理となります。
 月曜日の午後入院、火曜日治療となります。

7. 治療の実際

1) 治療前日に行うもの

  • 陰部の切毛(前日までに各自でお願いします)
  • 下剤の服用(夜)

2) 治療当日に行うもの(午前中)

  • 点滴
  • 浣腸

3) 治療時

  • 絶食(少量の水分は可)
  • 麻酔は基本的に腰椎麻酔(眠くなる薬剤を点滴することもあります)
  • 尿道カテーテルを挿入
  • 肛門からエコーを挿入し、エコーを見ながら会陰部からアプリケーター針とよばれる針を20~30本ほど挿入し、コンピューターで計算した通りに線源を計50~100個留置します。
  • 治療時間:約1.5~2時間
  • 治療後3時間で水分摂取可能、問題なければ夜から食事可能(図3)

図3

4) 翌日

  • CT、レントゲンの検査
  • 尿道カテーテル抜去

5) 翌々日

  • 問題なければ午前中に退院可能。

6) 退院後

  • 治療前に服用していたアスピリンやワーファリンなど出血傾向をまねく薬剤は治療後翌日から再開して下さい。
  • 退院後、1ヵ月後に泌尿器科外来に受診していただき、PSAの採血と、CTおよびレントゲン検査を外来で行い、挿入した放射線量の評価を行います(ポストプラン)。

8. 治療の合併症

  • 尿閉(尿がつまる):約1-2%程度に認められます。
  • 排尿困難:頻繁に認められる症状で、術後7-10日ごろから出現することが多く、約3か月間は持続します。多くの場合、治療後1年でほぼ治療前の状態まで改善します。治療後、しばらくは前立腺肥大症の治療薬である、尿道での尿の抵抗を抑える薬(α1ブロッカー)を内服していただきます。
  • 尿失禁:約0.2%の頻度と報告されています。
  • 直腸出血、潰瘍:術後6-18ヶ月で出現することが多く、直腸の生検などを行った場合は人工肛門造設の可能性もあります。
  • 性機能障害:約4-21%の頻度で認められます。治療後、精液の量は減少しますので、希望に応じて精子の凍結保存を行います(専門病院に紹介)。
  • 麻酔による影響(呼吸不全、血圧の変動による心筋梗塞や脳出血)。
  • 術前のアスピリンやワーファリン中止による血栓形成(心筋梗塞や脳梗塞)。
  • その他、血尿(治療直後はほぼ100%)、血精液症、頻尿、尿意切迫、尿道狭窄、尿路感染、会陰痛の可能性があります。
  • まれに線源が血流にのって肺などに移動することがあります。その場合X線写真で写りますが、一般的に体に問題になるようなことは何も生じません。

9. 術後の注意事項

  1. 前立腺に埋め込んだ線源は放射線を出しますが、ほとんどは前立腺に吸収されてしまいます。尿、便、汗、唾液などの分泌物にも放射能はありません。周囲の方に与える放射線量は人が自然に受けている放射線量よりも低いことがわかっています。しかし、一定の期間は周囲の方への配慮が必要です。小さいお子様を長時間ひざに抱いたり、妊婦との長時間の接触は避けて下さい。ただし、線源による外部への被爆はほとんど問題にならないため、同室での就寝や団欒(だんらん)は問題ありません。術後60日で放射能は半減し、1年たてば周囲への影響を気にする必要はなくなります。鉛入りパンツの購入も可能ですので担当医にご相談下さい。
  2. ごくまれに、尿に線源が排出されることがあります。1個の線源から出る放射能は微量であり、実際には問題を生じません。線源を拾えるようならスプーンなどですくい、ビンなどの容器に入れ、お子様の手の届かないところに置いてください。その後、あわてずに担当医にご相談下さい。仮にトイレに流しても問題ありません。
  3. 性交は術後4週間以降で可能です。ただし、精液中に線源がでてくる可能性があるため、術後1年間はコンドームを使うようにしましょう。
  4. 治療後1年間は「治療カード」を携帯して下さい。また、1年以内に何らかの手術が行われる場合には、手術を担当する医師から当院の担当医に連絡するようお願いして下さい。また、線源留置後1年以内に何らかの原因で死亡された場合には、剖検で前立腺を摘出する必要がありますので、家族の方は担当医に必ずご連絡下さい。

10. 費用

 治療費は線源代を含めすべて保険の適応になりますが、個室料金は自費になります。

11. 学会発表・講演(2019年1月以降)

  1. 福森知治ら ハイリスクの高線量治療 -ホルモン療法併用の有用性―(シンポジウム) 第15回前立腺癌密封小線源永久挿入治療研究会(東京)
  2. 福森知治ら 限局性前立腺癌に対するI-125 密封小線源療法の長期成績と安全性の検討 第107回日本泌尿器科学会総会(名古屋市)
  3. 福森知治ら 前立腺密封小線源療法後の排尿障害の推移と予測因子の検討~われわれが事前にできることは?~(シンポジウム) 小線源治療部会第21回学術大会(徳島市)
  4. 福森知治 前立腺癌治療の現状と展望~泌尿器科医の立場から~Brachytherapy LINK Next Generation Program 3rd meeting(東京)
  5. Fukumori T et al. Ten-year outcome for men with localized prostate cancer treated with I-125 brachytherapy.  The 57th annual meeting of the Japan Society of Clinical Oncology (第57回日本癌治療学会学術集会)(Fukuoka)
  6. 福森知治ら 小線源療法の後継者の育成と新規導入のノウハウ(シンポジウム) 第16回前立腺癌密封小線源永久挿入治療研究会(東京)

お問い合わせ

徳島市民病院 医事経営課

〒770-0812 徳島県徳島市北常三島町2丁目34番地

電話番号:088-622-5121(代表)

ファクス:088-622-5313

担当課にメールを送る

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