かすれた焼夷弾:坂部 三吉

更新日:2016年4月1日

 徳島市鮎喰町 坂部 三吉

 「空襲警報じゃ、布団かぶって外へ逃げぇ!」待ったなし。父の一喝に黒布で囲われた灯の下、防空頭巾をかぶって素足で寝床を出た。町中は混み合い、押し流されて踏切を越え、変電所が見える土手に向かっていた。出征中の長兄を除いた九人は、三々五々と散っていた。「ひぇー。」弟の手を引いていた長姉の奇声をそばで聞いた。焼夷弾が頭巾にかすれて、道端の田んぼに落ちた。水田の中に埋まり命拾いしたが、頭巾と掛け布団は焦げて真っ黒になっていた。沖浜変電所前で勢見山の方を見ると火の幕が広く高く暗闇を破っていた。炎は寄ってくる。我が家が燃える。
 類焼だ。B29が去り、警報解除になった。「家族は?」と右往左往した。夜が白んで次々と会えた。母は臨月だったので、そろそろと歩いていた。次姉は妹を背に田んぼ道で。次兄と次弟も見つかった。父は町内の防空壕にいた。家は灰になっていた。庭に埋めてあった長持は、調べることもかなわなかった。
 一日半合の米の配給で、甘薯(かんしょ)や馬鈴薯(ばれいしょ)の代用食。金では何も買えない物々交換であった。

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